シベリウス交響曲第6番第4楽章のテンポ

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フィナーレの開始のテンポ指示は Allegro molto(非常に速く)であるが、スピード感に欠ける演奏が多い。

第4楽章(計256小節)の冒頭、まず、ヴァイオリン、木管、ホルンによる下降音型が4小節。
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これに応えるヴィオラ以下の弦合奏による4小節。この応答が繰り返される部分(計48小節)を「導入部」とする。
聴きようによっては宗教的な崇高さを秘めているこの導入部が終わると、49小節目の短い動機に導かれて音楽が推進力を増す。
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複数の短い動機を活用しながら音楽はどんどん力を増し、145小節目で頂点に達する。ここまでの計97小節を「主部」とする。
主部の冒頭には,弦とティンパニに marc.(マルカート)の指示があるだけで、速度の指示はない。律儀に考えるなら、導入部と主部のテンポは一貫して Allegro molto というのがシベリウスの意図であろう。

残された数多くの演奏を聴き比べると、「導入部」がとても Allegro molto には聞こえない、ゆったりした演奏がいくつかある。
「導入部ゆったり派」の代表は、この曲の定番録音とされることが多い P・ベルグルンド(1929-2012)である。ベルグルンドは複数のCDを残しているが、テンポ設定は基本的に同じである。ボーンマス交響楽団との録音(1973年)で計測すると、導入部は2分7秒を要している。
これに対する「導入部快速派」、たとえばアシュケナージ&フィルハーモニア管弦楽団の録音(1984年)の演奏時間は1分34秒である。単純にメトロノーム記号に換算すると、1分間の四分音符数が、ベルグルンドは91、アシュケナージは123となる。
「ゆったり派」の演奏はシベリウスが指示する Allegro molto とは程遠いのであるが、シベリウス好きには人気の高いベルグルンドやブロムシュテットがここに分類されるのが興味深い。

【導入部ゆったり派ランキング】(数値はメトロノームのテンポ)
83:セーゲルスタム(1991年、デンマーク国立放送響)
88:ヴォルメル(2008年、アデレード響)
90:ブロムシュテット(1995年、サンフランシスコ響)
90:ベルグルンド(1986年、ヘルシンキ・フィル)
91:ベルグルンド(1973年、ボーンマス響)

【導入部快速派ランキング】
132:バーンスタイン(1967年、ニューヨーク・フィル)
129:クーセヴィツキー(1946年、ボストン響)
127:ヴァンスカ(1997年、ラハティ響)
125:マゼール(1968年、ウイーン・フィル)
123:アシュケナージ(1984年、フィルハーモニア管)

なお、導入部をゆったりと演奏する場合でも、主部に入ると速度を増すのが一般的である。ブロムシュテット、セーゲルスタム、カラヤンなどは特に導入部とのテンポの差が大きく、主部はまさに Allegro molto である。
ところで、導入部が48小節で主部が97小節ということは、楽譜の指示を頑固に守って完全に同じテンポで押し通すと、演奏時間がほぼ倍となるはずである。
トマス・ビーチャム(1947年、ロイヤル・フィル)がそれである。導入部のテンポは標準的であるが、頑固にそのままのテンポで145小節まで突き進む。演奏時間は導入部が1分47秒、主部はちょうど2倍の3分34秒。聴き慣れた演奏に比べると、導入部は速く主部は遅く感じるという変わりダネだが、「楽譜に忠実」というべきか。

ちなみに主部(49〜145小節)の演奏比較は以下のとおり。
【主部ゆったり派ランキング】
104:ベルグルンド(1986年、ヘルシンキ・フィル)
108:バルビローリ(1970年、ハレ管)
109:ビーチャム(1947年、ロイヤル・フィル)
112:ベルグルンド(1973年、ボーンマス響)
114:インキネン(2009年、ニュージーランド響)

【主部快速派ランキング】
151:クーセヴィツキー(1946年、ボストン響)
139:バーンスタイン(1967年、ニューヨーク・フィル)
139:マゼール(1968年、ウイーン・フィル)
139:ツェートマイアー(2007年、ノーザン・シンフォニア)
138:シュネーヴォイクト(1943年、ヘルシンキ・フィル)

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このページは、彭祖老師が2017年7月15日 16:16に書いたブログ記事です。

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