唐代の経書字体の確定作業

唐代,経典の文字を「正体」に統一する事業が何度かおこなわれた。

・顏氏字様/顔氏字様(佚)
顏師古(581-654)撰。
唐の太宗の命で孔穎達らが『五經正義』を編集したが,それに先だって経書のテキストの校訂を顏師古に命じた。顏師古は多くの写本を比較検討して「顏氏定本」と呼ばれる定本を完成した(貞観七年〈633〉)。テキスト校訂作業の副産物が『顏氏字様』。楷書の異体字を並べて正字を定めたもの。今は残らない。

・干禄字書
顔元孫撰。祖父顏師古の『顏氏字様』にもとづく。約1600字について,その異体字を集め,〈俗体〉〈通体〉〈正体〉の別を注記する。
たとえば「聡」の字については,「聡聦聰 上と中は通体,下は正体」。「功」については,「㓛功 上は俗体,下は正体」など。
配列の順について。文字は「四声」(平・上・去・入)に分けられ,各声については『切韻』の配列に従う。
甥にあたる顏眞卿(709-785)が石に刻して広まった。
所在:夷門廣讀書法(叢書集成新編),後知不足齋叢書など

・五經文字
張參撰。唐の代宗(762-79)の命により,776年完成。
安禄山事件以後,経典の文字が混乱した結果,官吏登用試験において正体以外の文字が許容される事態となった。この弊害を除くために書かれた。経典中の疑わしい文字3,235字について,『説文解字』,漢石経(蔡邕による熹平石経),『字林』,『經典釋文』などによって正体を確定。
所在:『景刊唐開成石經 附賈刻孟子嚴氏校文』(中華書局出版)

・九經字様(新加九經字様)
唐玄度撰。文宗(826-40)の命による。『五經文字』の補足を意図した。『五經文字』に見えない421字を収める。
『五經文字』とともに開成二年(837)の「九經石刻」(開成石経)の末尾に刻された。(「九經」と称すが,『論語』『爾雅』『孝經』を含む十二種である。)
所在:『景刊唐開成石經 附賈刻孟子嚴氏校文』(中華書局出版)

この記事について

韓康片先生が2008年10月 7日 14:41に書きました。

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