『爾雅』の概略

文字の古義を知る重要文献。

撰者は不明。周公,孔子などに仮託する説があり,成立時期も不明。戦国期から漢代にかけて儒者の手によってまとめられたと思われる。
『漢書』藝文志(孝經の部)には「爾雅三巻二十篇」とあるが,現行本は十九篇(「釋詁」を上・下に分けて計二十篇とするテキストもある)。
古い語彙を知る手がかりとなる重要な文献である。
晉の郭璞(276-324)の注が残っている。注では,その字の出典(経書)が示されている。
のち「十三經」に入る(郭璞の注に拠り,邢昺の疏を付す)。

1. 釋詁:同義字を列挙し,最後にその意味を記す。
如適之嫁徂逝往也。(如,適,之,嫁,徂,逝は,「往」という意味である)
2. 釋言:日常で使う同義字を列挙して(ただし一字からせいぜい二,三字)その意味を記す。
還復返也。宵夜也。(還,復は「返」である。宵は「夜」である。)
3. 釋訓:形容詞や擬態語,擬声語。
肅肅翼翼恭也。(肅肅,翼翼は恭しい様子を意味する。)
美女爲媛,美士爲彦。(美女を「媛」という。美男を「彦」という。)
4. 釋親:親族関係名称。
妻之父爲外舅,妻之母爲外姑。(妻の父は「外舅」。妻の母は「外姑」。)
女子謂兄之妻爲嫂,弟之妻爲婦。(女性は,兄の妻を嫂と呼び,弟の妻を婦と呼ぶ。)
5. 釋宮:建築用語。
西南隅謂之奥。(部屋の西南のすみを「奥」と呼ぶ。)
門側之堂謂之塾。(門の脇の建物を「塾」という。)
6. 釋器:器物や調理などにかかわる語。
魚謂之鮨,肉謂之醢。(〈塩漬けを〉魚の場合は「鮨」といい,肉の場合は「醢」という。)
7. 釋樂:音楽関係。
大笙謂之巣,小者謂之和。(大きな笙を「巣」といい,小さいのは「和」という。)
8. 釋天:天文,気象,暦,祭祀など。
春爲蒼天,夏爲昊天,秋爲旻天,冬爲上天。(春は蒼天,夏は昊天,秋は旻天,冬は上天。)
暴雨謂之涷,小雨謂之霡霖。(にわか雨を「涷」といい,小雨を「霡霖」という。)
9. 釋地:地理。
両河之間曰冀州。(湾曲する黄河に挟まれた所を冀州という。)
10. 釋丘:地形。
11. 釋山:山岳。
12. 釋水:河川や渓谷。
13. 釋草:植物(草本)。
14. 釋木:植物(木本)にかかわる語。
15. 釋蟲:昆虫などの小動物。
16. 釋魚:魚介類などの水生動物。
17. 釋鳥:鳥類。
18. 釋獸:哺乳類など。
19. 釋畜:家畜類

この記事について

韓康片先生が2008年10月21日 14:35に書きました。

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